弐章「恋人」5:夜明け前 [弐章:恋人]
5:夜明け前
(待て待て待て!なんだこれは?)
ツルギは頭を抱えた。自分のベッドに、リノが寝ている。
神様からのプレゼント?いやいやそんなわけがない!次期国王の母親が自分のベッドで寝ているなんて、こんなところ他の人間に見られたら、いよいよ自分の立場がまずいことになる…しかし忙しすぎて、自分が何もしていないと言い切る自信がない…ツルギは混乱していた。どうしてこうなった?
「おい、起きろ。それとも俺と子供作るか。」
「こども…つくる…?」
「…」
「わけねーだろ。」
ツルギの声に、リノが反応しギロリと睨みつけられると、ツルギは力が抜け、その場にへたり込んだ。
「(自分で聞いたくせにノリ突っ込みダメージデカかった)…おい、何してるんだ俺の部屋で?」
「ゼギがあんたのところ行きたいっていうからさぁ…よく寝たー。」
「ゼギ様?」
「ほら。」
リノが上掛けをめくると、すやすやと熟睡するゼギがいた。
「最初は部屋の前で待ってたんだ。帰ってこないから明日にしようって言ったんだけど、戻らないって言い張って鍵まで開けちゃって。夕べから待ってるうちに眠くなっちゃって…ごめん。ツルギ休むんでしょ?うちら帰るから。」
「いいよ。気持ちよさそうに寝てんじゃん。そのままにしとけよ。」
「そお?じゃ必要なもの取りに行ってくる。」
「んー。」
リノが自室に戻ると、ツルギはベッドサイドに膝をついて、ゼギの寝顔を覗き込んだ。天使のような寝顔を見て、安堵のため息をついた。
「まったく…やってくれるな王子様。」
「zzz」
穏やかな寝顔に、つい顔がほころんだ。
「ゼギ様、あの約束忘れんなよ?俺達はこの先暫くチームなんだから。」
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昼過ぎ、休みのベッキーが寮の喫煙所の窓から外を見ると、ベビーカーにゼギを乗せ、出かけるツルギとリノの姿が目に入った。
「…は、今日は『休日のパパ』気取りか、よくやるわ。」
ツルギとリノは、ゼギを外遊びさせるため、迷いの森に出かけた。
「あ、そうだ、部屋のドアに手紙が挟まってたよ。デスクに置いておいた。」
「早く言えよ。」
「ラブレターなんて後で読めばいいじゃん。ちょっと出かけるだけなんだからさぁ。」
「俺は物事の順序について…」
「はいはい、うるさいなーおじさんは。」
「おじさんて言うな!」
その日は秋晴れで少し肌寒く、乾いた風が程よく吹いていた。枯れ葉をザクザクと踏みつけながら進み、森のベンチに腰掛けた。
「ちょっと早かったかな。」
「ここで待ってればいいのか?」
「うん、向こうもこの森は慣れっこだから。」
ゼギは枯れ葉の踏み心地を楽しみながら、どんぐりを拾って遊び始めた。程なくすると、3人に近づく足音が聞こえてきた。