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壱章「契約」1:王子様と剣士様 [壱章:契約]

1:王子様と剣士様

 

 

ざく、ざく、ざく。

森の外れの開けた土地で、男二人が、シャベルで穴を掘っていた。
一人は長身の男。長い黒髪をまとめ、喜々として土を掘り。
一人は小柄な男。見るからに、やる気の無さそうな態度で掘り。
長身の男は、作業を続けながら、小柄な男に話しかけた。

「『神』と言う存在は、いつ『神』になったと思う?」

「…神様ってのは、最初からいるものでしょー?」

「いや、人間がそう呼んだ瞬間から、神は『神』になったのさ。じゃあ、『悪魔』は?」

「さぁ…それも人間が…って言いたいんですか?」

「その通りだよ、ツルギ。つまり人間は、目に見えるもの、見えないもの…色々なものや存在に、名前を付けたのさ。それらは総て、自分達の都合だ。」

長身の男は、額の汗をタオルでぬぐいながら、話を続けた。

「人間が、言葉や文字を使う生き物であるばかりに、その存在は『神』や『悪魔』となった。彼等が名乗る前から、人間によって決められた。…名乗ると言うのもおかしいかな。相手が言葉や文字を使う存在かどうかも、分からないのだからな。」

「…」

「土、風、太陽も…彼等は、本当にそう呼ばれたかったと思うか?」

「…」

「言葉は時に相手を決めつけ、傷つける…その事に責任を持たなければいけないのさ、使う側は。自分達の都合ばかり考えていては、些細なことから争いは起こるものだ。言葉は逆に、勇気を与えたりする事もあるけどね。それは、人間同士の繋がりばかりではなく、植物が元気になったりする場合もある。『言霊』と言われるものは、やはり存在すると考えた方が、世の中理解しやすい。」

「なるほど…俺も一つ、結論を得ましたよ。」

「おぉ。珍しいな、いつも聞くばかりのお前が。で、どんな結論だ?」

「何故カーダ王子が、女性に『おモテにならない』のかが、よーく分かりました。」

「……え?」

土を掘るカーダの手が止まった。ツルギはため息混じりに言葉を続けた。

「カーダ様のありがた~いお話を聞いて、面白いと思う女性が、この世に存在するとは思えません。もしそんな稀少なお方が現れたとしたら、すぐに結婚なさった方が良い。」

「おいおい、今は女性を口説く話をしている訳じゃなくて…」

「同じ事ですよ!口を開けば、説法まがいな話ばかりじゃないですか!ここは『お寺』じゃないんです!」

「僕は出家してないよ。厳しい修行を重ねた『お坊さん』と一緒にしたら、失礼ないじゃないか。」

「あーもぉ!そういう事じゃなくて~!…いいですよ、もういいです!大体どうして汗だくになって、こんな事手作業でやらなくちゃならんのですか?魔法を使えば一発で掘れるのに!」

「手作業にこそ、意味があるんだ。土の中にも、沢山の時の流れと、生命の痕跡がある。時間をかけて掘るのは、土との対話なのだよ。」

「はぁ…カーダ様と議論しても、時間の無駄ですね。…前から知ってましたけど!」

ツルギは作業する手を止め、シャベルを片付け始めた。

「ツルギ、また一服か。」

「先約があるんです。私は、カーダ様の趣味に付き合っているほど、暇じゃないんで。」

「趣味じゃないよ、立派な研究だ。まだ途中だ、手を止めるなよ。」

「今日はメイドの子達連れて、ランチに行く予定が、ずっと前から入っているんです。シャワー浴びたり着替えたりしないと、間に合わない。」

「いつの間に;…(相変わらず、抜け目のない奴)。」

「国に戻ったときぐらい、自由にさせて下さいよ。じゃ、女の子達待たせちゃうんで、失礼。また戻ったら、付き合ってあげますから。」

「…なんだよ、まったく。今日は午後3時頃から雨だから、早めに終わらせたいのにっ。」

釈然としない表情で、カーダが作業に戻ると、離れた所から、ツルギの声が聞こえた。

「勝手に森に行って、魔法使ったりしないで下さいよ!俺が怒られるんですからね!」

「そう思うんだったら、ずっと監視してればいいだろ!…知るもんかっ。」

程なくして、カーダの目の前に、充分な大きさの穴が出来上がった。腐葉土を作る為に、掘った穴だ。これから森で葉を拾って、埋めなくてはいけない。大きな穴を開けっぱなしにして、誰かが落ちて怪我をしたら大変だ。今日中に、埋めておきたい。

「これからが、本当の意味で、ツルギの手が必要だって言うのに…。」

ここは、クルト城の敷地内。現王ドーバの2人目の息子カーダは、日本の農業大学に留学し、先日ツルギと共に帰国したばかりだった。敷地の隣には、「迷いの森」と呼ばれる、大きな広葉樹の森が広がっている。城仕えの魔法使い達が、代々魔法を唱え、森毎、侵入者防止用に『人や魔物を迷わせる森』に造り上げた。出入りするには、魔法使いの許可が必要だ。その許可を出せるのは、王国剣士兼サエル(城仕えの白魔法使い)ツルギである。

結界は、一度破ると、破った部分が弱くなる。それには、ちゃんとしたサエルの力が必要となる。
カーダは魔法を使えるが、森との間に張り巡らされた、強固な結界を張り直せるほどの、強い力は備わっていなかった。

「ちょっとくらい、いいかな…」

カーダは、いざという時に使えとツルギから渡された、簡易護符を取り出した。本来なら、悪魔に出くわした時の護身用に使うものだが、結界の張り替えにも使える。簡易的なものなので、後でツルギが戻ってきた時、しっかり張り直させればいい。今は特に、邪な気配を感じる事も無いのだから。

カーダは森の結界に、自分の体一つほど穴を開け、通り抜けた後、簡易護符で閉じた。葉を集める麻袋を小脇に抱え、森へと向かった。迷うほど深く入らず、簡単に終わらせてしまおうと、急いだ。

子供の頃、たまにツルギと遊んだ森。迷わないようにと、目印に松ぼっくりを置いた。帰りには回収しながら戻り、何度も遊んだ。懐かしい香り。記憶には無い、母の優しさを感じるような感覚。久しぶりに、クルトの城に帰ってきたのだな、と実感する。
森には、長年積み重なった落ち葉が敷き詰められていた。
それにしても、今から1人で、麻袋数個を満杯にしなくてはならない。手作業では、時間が掛かりすぎる。落とし穴になる前に、掘った穴を埋めなければ。「ここの時間は省こう」と、さっさと葉を集めるため、カーダは『集める系魔法』を唱えた。
ごうと小さく音を上げ、カーダの回りを竜巻のように、葉が舞い始めた。くるくると螺旋を描きながら、
麻袋がどんどん満杯になっていく。魔法の力は弱くても、軽いものを移動させるのは簡単だ。

「こんなもんかな~?」

独り言を呟き、麻袋をまとめ、『浮かせる系魔法』で運ぼうとしたとき、何者かの視線を感じた。振り返ると、見慣れない子供が1人、驚いた顔をして、立ち尽くしていた。


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Riruru

おつかれさまですーー!!
剣士さまと王子さまコンビの会話が
楽しかったです♪
どうなる!!ってところでお話がぁあ
ものすっごい気になります☆
by Riruru (2009-02-26 09:51) 

さめ宗家めぐ

>Riruruさん
たった今、Riruruさんトコ行って来たのでした(笑)行き違いですねw
感想ありがとうございます。零章とは違う感じで始めてみました。
と言うか、本来この「会話が多い」のが、私の作風かもしれません;
これからも、言葉のやりとりも含め、書き進めて行きたいと思います。
by さめ宗家めぐ (2009-02-26 10:15) 

のんちー母

篭っていたため、すっかり出遅れてしまいました(^^;
やっとじっくりと拝見することが出来ました!
小説ブログのオープン、おめでとうございます\(^o^)/
&掲載、楽しみにしています♪o(^o^)o

いよいよだね~!
会話が多いという作風は、アニメやマンガを思わせて、
めぐさんらしくて、テンポも良くて、
とても読みやすく、楽しく、響いて来ますヨ(^_-)
イイところで「つづく」となるのも、めぐさんらしさ(笑)
これからもめぐさんペースで、楽しく連載してって下さいネ♪
イラストもすごーく楽しみです!
by のんちー母 (2009-02-27 11:13) 

さめ宗家めぐ

>のんちー母さん
読んで下さり、ありがとうございます。お加減大丈夫ですか~?
不定期に更新しますので、また遊びに来て下さい(^^)

私のお話は、原作がノートに描いたマンガだから(笑)
読書家ののんちー母さんに、読みやすいと言って貰えると、とても嬉しいです♪
つづく、は、期待度上げないといけませんからねw今後も良いところで切りますw

イラストも頑張ります~。応援ありがとうございます。
by さめ宗家めぐ (2009-02-27 13:45) 

toki

よし、全部読み終わった−!
ちゃんと読んでからコメント残そうと思っていたのでw
現代(実際の世界観)とファンタジーが入り組んだような、
不思議な世界観なんですね〜、面白いです^^*
台詞が多めなので、キャラが活き活きしてるように感じますね♪
今後も楽しみにしています!
by toki (2009-02-27 18:55) 

ささ

小説開始されたのですねv
サイトの方で現代モノを拝読していましたが、
こちらではヒロイックファンタジーモノという事で、
めぐ様の別ジャンルが拝読できるという事で、
楽しみが増えました☆
これからもキャラたちの活躍、楽しみにしていますv
by ささ (2009-02-28 14:00) 

さめ宗家めぐ

>tokiさん
ご多忙なのに、読んで下さってありがとうございますー。
あまりファンタジー色は強くないですが、私が好きなワードを詰め込んだら、
こういった始まりになりました。
結局私はお喋りなので、物語を作っても、会話がメインになってしまいます。
これからも、こんな調子で続けていきます。
またお時間がございましたら、遊びに来て下さい。

by さめ宗家めぐ (2009-02-28 18:48) 

さめ宗家めぐ

>さささん
ありがとうございます。読んでいただけて感激です☆
【かのこ】の方も、アレはアレで、書いていて楽しかったのですが、
元々こっちの方を、ずっと前からノートに書きすすめていたので、
今回思い切ってブログで書くことにしました。
私自身、本を読まないので、どういうジャンルか良く分からないんですけど、
ヒロイックファンタジーというのですか~。勉強になりましたm(_ _)m
続きも、皆様に楽しんでいただけるようなお話にしていきたいと思います。
よろしければまた遊びに来て下さい♪
by さめ宗家めぐ (2009-02-28 18:52) 

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