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壱章「契約」3:迷いの森の魔法使い [壱章:契約]

3:迷いの森の魔法使い

魔法使い…最近では、あまり見なくなった。リノ自身もマールと同じく、、ちゃんとした魔法を使う魔法使いを見たことがなかった。以前は式典などで、術を披露する魔法使いもいたらしいが、ここ数年は特に、主な行事も縮小傾向にあり、魔法の儀式を披露する場さえ無かった。

原因は、隣国トロンの戦にあった。大陸の国による、トロンの島を巡っての争いがあり、同盟を結んでいるクルト王国からも、剣士や魔法使いが派兵されていた。クルト王家からは次期国王となる、現王ドーバ第一子、ザガ王子が出兵していた。
トロン近海には良い漁場と豊富な地下資源があった。魔法使いが沈めた海賊船の、財宝が眠っているという噂まであり、それを求めしばしば争いが起きる。

トロンが墜ちれば、次はクルトかもしれない…。クルトには、門外不出とされる、クルトダイアの鉱山と、サラの民の還る場所がある。信仰を守るため、トロンとクルトは、敵国と争うことを選んだのだった。

戦地は見えない海の向こうとは言え、近年のクルトは、とても沈み返った空気に包まれていた。王妃の死、ドーバ王の体調不良…。それは、青果市場の活気にも現れていた。リノの、未来が見えない不安な心も、更に増殖した。

昼休み。リノは、トーマの元に出向いた。青果市場は広く、リノは小売店、トーマは物流部門に勤めているので、仕事中は、たまに顔を見かける程度だった。トーマはよく言えば倹約家で、肉体労働にも関わらず、たまに食事代もけちるので、リノが昼休みに会いに行くときは、いつも弁当を持参していた。
輸送用の木箱に座りながら、ありがたそうに食事をがっつくトーマに、リノは今の思いを話してみた。

「進学したい?」

「…やっぱり無理だよね。」

「うーん…義務教育以上の進学希望だと、国から援助金出るのは、元々それなりの教育受けてきた人間だけだし、里親のいないオレらみたいのは、自分で全部学費を払うって事だろ。夜学でも、厳しいよなぁ。ここで働いてたんじゃ、金どうこうより、体が保たないし。」

「そうなんだよね…。」

「オレなんて勉強出来なかったから、今の生活の方が楽しいけどな♪でも諦めるなよ。『志があれば、道は開ける』って、(院長)先生も言ってたろ。トロンの戦が終わって、ザガ様が戻って来たら、きっと景気も良くなるって。そう悩むなよ。勉強したいって気持ちがあるのは、悪い事じゃないんだからさ。」

「うん。」

トーマはそう言うと立ち上がり、手や服を叩いてパンくずを落とした。

「じゃ、オレ行くわ。昼飯ありがとな!あと、マールにもちゃんと言っとくから、サボらんよーに。」

「あ、うん。じゃあ…。あ、トーマもたまには、オリビアさんのお店(リノの夜のアルバイト先)来なさいよ。なんか食べさせてあげるから!ちゃんと食べないと、トーマの方こそ体保たないよっ!」

「はいはい、じゃーな!」

リノの言葉に、トーマは笑顔を見せ、手を振った。その後ろ姿を見ながら、リノは呟いた。

「もう…結局聞き流しているだけなんだから…。」

トーマはいつも、楽天的な反応しかしないので、リノは敢えて“相談”はしない。ただ愚痴を聞いて貰って、前向きな言葉を聞きたいだけだ。トーマに話すと、いつもモヤモヤしていた気分が落ち着いた。リノにとってトーマは、頼れる“兄貴”だった。

仕事が終わり、図書館に向かうと、リノの目に、マールの姿が映った。

「あれ?マール。こんなところで何してんの?」

「あ、リノ!待ってたんだ~。今日は本を返しに来る日だと思って。」

マールはリノに近づき、自慢気な顔をして、口元に手を当て、ひそひそ話を始めた。リノもマールの仕草に合わせ、耳を貸した。

「『森の友達』が、中にいるんだ。待ち合わせをしてるの。」

『森の友達』…あの、魔法使いか。リノが言葉を発する前に、マールはリノの手を取った。

「一緒に探してよ。」

「ま、待って。あたし本を返却しに来ただけで、また院に行かないと…。」

「大丈夫だよ、今日は先生いるし、体調良さそうだったから。早く早く!」

マールが強引に手を引くものだから、リノは躓きそうになった。静止しようとしても、静まりかえった図書館で、大声は出せない。仕方なく、マールの歩みに合わせて、館内を進んだ。
正直、興味はあった。マールがこんなに心酔する相手とは、一体どんな人物なのかと。

「哉汰どこかなぁ…。」

「…何か調べるって言ってたの?」

「うん、お手伝いする約束したの。今日は農作物がどうとか言ってたんだけど…。」

マールの言葉を聞き、農作物の本が並ぶ棚に向かうため、南館に向かった。

高い位置の窓から、柔らかい西日が差し込む廊下を歩く。入り口とは違って、警備員以外、人気が全く無い。館内の天井は高く、とても静かな空間だった。
一つ一つ棚の列を覗き、人影を探しながら、リノの胸は高鳴っていった。

これから起こることが、自分にとって、大切な儀式の様な気がした。

 


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Riruru

こういう立場の子たちを考えると 学びたくても…
色々と難しいとか子供なりに考えている姿が
とっても切ないです(><)
でも 物語は動き出すって感じな〆で
毎度きになっちゃいます!!!

by Riruru (2009-03-30 18:11) 

さめ宗家めぐ

>Riruruさん
今回も読んでくれてありがとうございます~m(_ _)m
日本みたいに、環境が整い過ぎていると、返って自分から学ぼうと思うって
なかなか難しいかもしれません。
求めたり、与えられることが当たり前ではない。
若いときに好きなことが出来ないって、凄く辛いですよね。

早いところ進めなきゃ~と思っています。またお時間のあるときに、
遊びに来てやってください。
by さめ宗家めぐ (2009-03-31 10:16) 

白悠

こんにちは。
コメント有難うございました。

擬人化設定デビューおめでとうございます!
リヴリーの擬人化、楽しいですよね。
これからも素敵なイラストを描いてくださいねv

さめ宗家めぐさんの小説、格好良いですね。
キャラクターの自然な動作も文に表現していて素晴らしいです。

画力も文章力も持ち合わせているなんて羨ましい限りです。

では、失礼しました。
by 白悠 (2009-04-03 23:42) 

さめ宗家めぐ

>白悠さん
いらっしゃいませ。nice!&コメントありがとうございます~♪
何も分からずじまいで、周りの方にアドバイスを頂きながら、
この度擬リヴデビューしましたm(_ _)m
まだ自分の設定しただけなので、今後は自分なりに楽しみたいと思います。

小説も、読んでいただけたのですね。ありがとうございます!
文章は、ネタ帳見ながらの作業なので、すぐ書けるのですが、
挿絵が描けず、カメの様な更新速度です;;
メインのブログは、毎日書いているのですけど…。
でも、今後も同じスタイルで、納得のいく作品を書いていきたいです。

お粗末な文章にお付き合い下さり、感謝感謝でございます。
まだまだ若輩者です…今後も精進していきます。
by さめ宗家めぐ (2009-04-04 00:40) 

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