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壱章「契約」8:逢わせなきゃ [壱章:契約]

 


※1~6 のあらすじ・人物紹介・用語説明等はこちらをクリック

以下7話以降の略説(溜まったらあらすじページ作る予定)

7:哉汰はリノに、自分の秘密を打ち明けた。お互いの胸の内を知り、また会う約束を交わした。

台詞の色分け

リノ…オレンジ

トーマ…緑

マール…黄色

哉汰…水色

ツルギ・その他…白


8:逢わせなきゃ

「リノ、コレで全部。」

「はいはーい…。」

店番をまかされているリノに、物流担当のトーマが声を掛けた。東コロトア地区の積荷を運んできたところだった。リノは小売店の店で働き、常連客の相手をしていた。愛想良く接客するリノを見て、客の1人が、トーマとリノの顔を見比べながら言った。

「綺麗になったねぇ、リノちゃん。好きな人でもいるのかい。」

「え…?やーだもう!からかわないで下さいよ~!」

リノは嬉しそうに、ほほを赤らめた。トーマは、いつもと雰囲気が違うリノを見て、具合でも悪いんじゃないかと思った。普段のリノなら「トーマはただの、幼馴染みですから!」と、完全否定するのに、今の反応は、完全にトーマが近くに居ることを、考えていない様な返事だった。
常連客は去り際に、トーマに近づき「あんた、ふられたの?」と聞いてきたが、トーマは「知らないよ。」と、首をかしげ、肩をすくめた。
思えばさっきの返事も、心ここにあらずと言った雰囲気だった。接客を終えたリノが、不意に立ち上がったとき、たった今トーマがおろした荷物の木箱につまずき、転びそうになった。よろけるリノを、トーマが支えた。

「バカ!荷物持ってきたとき声かけただろ?狭いんだから…転んで商品に傷付けたらどうすんだよ!」

「あ、ごめんごめん…昨日あんまり寝て無くて…ボーッとしてた…。」

「また本読んでたのか?仕事に障るくらいなら、控えろよ。」

「そうじゃなくて…考え事してたら、眠れなくなっちゃって。」

そう言うと、リノはトーマの顔を、真剣な表情で真っ直ぐ見つめた。

「…トーマ。話があるんだけど。」

「なんだよ?」

「今はちょっと…こっちの仕事終わったら、中抜け出来る?」

「いいけど…。」

「じゃ、あとで院に…。」

そこに突然、甲高い声が響いた。声の主は、トーマの弟マールだった。

「あ、いたいた!兄ちゃん!リノ!お客さん連れてきたよ♪」

「マール!ここは子供が来る所じゃ…?」

声の先を良く見ると、マールは見知らぬ長身の男の手を引いていた。男は長い黒髪を束ね、異国の服をまとっていた。その後ろを、面倒くさそうに付いてくる、トーマと同じくらいの背の男がいた。マールと黒髪の男は、対照的に笑顔だった。「あれ誰?」と、リノに耳打ちしようと思って目を映すと、リノは立ったまま硬直していた。トーマは、状況が飲み込めないまま、マール達が近づくのを待った。

「『こんにちは』、リノさん。」

「『こんにちは』…哉汰さん。」

「…マール。ちょっとこっち来い。」

トーマはマールを呼び寄せ、山積みの木箱やダンボールの間を通って、店の奥に連れ込んだ。

「アレは、誰だ?」

「僕の友達、日本人の哉汰って言うんだ。あと、付き人のツルギ。」

「友達って、いつからあんなのと知り合いなんだよ。兄ちゃん聞いてねーぞ。」

「悪い人じゃないよ、哉汰は。凄く優しいんだ。」

「…お前、どうやって知り合った?」

「森で逢ったの。植物の研究をしてて、お城の敷地を借りてるんだって。」

「あいつ、魔法使いだろ?」

トーマの顔が、徐々に厳しくなるのを見て、マールは不思議に思った。

「兄ちゃん、見て分かるの?」

「ジズじゃないだろうな?あの黒髪…。」

「違うよ!日本人は髪が黒いんだもん!それに哉汰はクルト人とのハーフだから魔力が弱くて、魔法は簡単なものしか使えないって言ってたよ。」

「でも魔法は使うんだな…リノも知ってるのに、俺は何にも聞いてないぞ。どういう事だ?」

「僕がリノに、逢わせたかったんだ!だからリノにだけ、哉汰を紹介したの!兄ちゃんには、僕から話すからって、言わないでおいてもらったんだ。だから今日、連れてきたの。」

「どうしてそんな勝手な事を!訳の分かんない奴等に近づいて、危ない目に遭ったらどうすんだよ!」

「僕は哉汰が…リノには必要だと思ったんだ…。」

マールは俯いて、言いにくそうに呟いた。ちゃんと話を聞く為に、トーマは膝をつき、マールと目の高さを同じくらいにした。マールの顔を真っ直ぐ見つめ、左腕を掴んだ。

「どういうことだ?ちゃんと話してみな。」

「兄ちゃんだって、こういう生活が、リノに合ってないって思ってるでしょ?」

「それは…それとこれと、どう関係があるんだよ?」

「哉汰は今でも、自分の好きな研究を続けている、学生なんだ。きっとリノには、哉汰みたいな話し相手が居た方が、元気になれると思ったの。リノは、僕達とは違う。進学して、もっと偉くなる人だって、僕は思うから。兄ちゃんだって、そう思うでしょ?そう言う友達が、居た方が良いって。」

「…お前が、誰に言われた訳でも無く、二人を逢わせたいと思ったのか?」

マールは、力強く頷いた。マールの真っ直ぐな瞳を見て、トーマは肩から手を外した。

「…怖いこと、されてないんだな?」

「何にもされてないよ。今日だって、僕が庭掃除の当番だって言ったら、落ち葉を集めて“焼き芋”作って院のおやつにしようって、言ってくれたんだ。だから今こうして、店に連れて来たの。院への寄付だって。落ち葉も片付くし、良い考えだと思わない?哉汰が提案してくれたんだよ!悪い人なら、そんなこと、子供の僕に真剣に言わないでしょ?」

「…分かった。城の敷地の使用許可が出てるなら、ちゃんとした人なんだろうし…あんまり邪魔になる様なことはしないでな。それと、院の仕事も、勉強も、手は抜かないこと。お前の勘の良さを信じてるから、おかしいなと思ったら、もう会うんじゃないぞ。」

「はーい!」

マールとトーマが戻ると、哉汰は“サツマイモ”が入った箱を手に持ち、リノと話し込んでいた。
トーマは、色々な思いを巡らせた。リノと会う口実に、マールを使っているのかもしれない。しかし、身なりの良さと、マールの話を聞く限り、身分の高い家柄の人間だと言うことだけは、感じ取れる。市場で働く子供の俺が何を言っても、聞き入れるとは思えないし、こんな貧乏人の子供達を騙したところで、何の得も無いだろうし。ただの金持ちの気まぐれかもしれない。聞きたいことは山ほどあるが、今は勤務中だ。

「西レイユ産か…美味しそうですね。ツルギ、お勘定して。」

「はいはい…(また無駄遣いして)。」

「じゃマール、孤児院に戻ろう。次は院長先生を紹介して。」

「うん!兄ちゃんとリノの分も取っておくから、後で院に来てね!」

「ああ、庭掃除、しっかりな。」

「では、お邪魔しました。お仕事頑張ってください。」

「…まいど。」

哉汰はにっこりと微笑み、トーマは腕を組んだまま、軽く会釈した。無言で頭を下げたリノに、トーマは囁いた。

「リノ…話って、あいつの事か?」

リノは何も言わなかったが、顔が耳まで赤くなっていた。新たに来た客に応対するリノを見ながら、トーマは空箱を拾い集め、台車を押して持ち場に戻っていった。「おもしろくねぇ」と、独り言を呟いた。
マールとリノが、どっちも自分に隠し事をしていたと思うと、腹立たしかった。こんな事、初めてだった。
後で院に行ったら、奴もそこに居るはずだ。どんな奴か探ってやろうと、トーマは心に決めた。

マールは昔から、勘が良い。院生以外の「外の人」に、あんなに慣れるのは、見たことがなかった。気掛かりなのは、リノの様子。こんな顔をするリノを、トーマは初めて見た。哉汰とか言う男の事を、本気で好きになってしまったようだ。トーマは恋愛感情とは別のところで、家族として心配になった。

リノとトーマは幼馴染みで、婚約もしていたが、それは恋愛ではなく、ただの口約束の延長だった。
8歳になった頃、両親を亡くして落ち込んでいたトーマに、リノが「私が家族になってあげるから」と、慰めたのがきっかけだった。だから、お互い好きな人が出来れば、その関係も解消しようと思っていた。同時に、相手がいなければ、家族になっても良い相手だとも、思っていたのだ。だから、婚約関係を解消せず、今まで過ごして来たのだった。

リノのことを、女性として意識してはいなかったが、他の男に恋をするリノの姿を見せられてしまうと、正直複雑な気分だった。しかし、弟のマールが引き合わせた相手なら、あまり悪いように思いたくない。「家族」に近づいてきたのがどんな人物なのかは、やはり自分の目で確かめなければいけないと思った。

『リノは、僕達とは違う。』

それは分かっている。でもマール、言い方を変えれば“俺達は、リノと違う”ってことなんだ。
市場が落ち着く昼過ぎになり、トーマは院へと向かった。


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コメント 4

コメントの受付は締め切りました
ささ

小説再開、お疲れ様ですm(_ _)m
&おめでとうございます(^◇^*)/
リノちゃんの恋心に、トーマくんの穏やかならぬ心境、
私のような年寄りになると、微笑ましいワァ(#ノ▽ノ#)と、
本人達にとっては大変なのに~ と怒られそうですが。
院に戻ったトーマくん、どういう展開になるのか~?
また拝読に伺いますv
by ささ (2009-10-01 16:30) 

さめ宗家めぐ

>さささん
ありがとーございます!久々に載せたので、コメントいただけるなんて
思ってなかったもので、感激です♪
彼等は学生じゃないけど、まだ15歳ですからねぇ。
子供と大人の間で、色々な思いを抱えているお年頃ってところですかね。
次の更新は、もっと早くしたいと思いますので、お時間ございましたら
また酔ってやってください。
by さめ宗家めぐ (2009-10-01 22:43) 

りるる

めぐさん おつかれさまです!
続きまってましたー!とってもうれしいです♪
こっそりトーマとリノの間はどうなるんだろうって
おもっていたら そのお話がでてきて「おおお!!」
彼のリノを思う心がおにいちゃんって感じ…だけど
複雑な気持ちもあって…悩むが行動に出ようという
彼の姿とてもよかったです。
マール君とトーマ君さすが兄弟という会話で心ホクホク!
トップ絵がツボ過ぎたのはいうまでもありません(*ノノ)
至らない感想ですいません…
次回もたのしみにしています(^-^)
by りるる (2009-10-02 15:27) 

さめ宗家めぐ

>りるるさん
早速遊びに来てくれて、ありがとうございます。
トーマとリノは、院で育っているから、“家族”にはなりやすいけど、
男女の間って感じじゃないからなぁ…と思って、こっち側の話も書きました。
長い話なので、色々書かないと;
トーマはブラコン♪なので、凄く心配なんですよ、マールのことが。
色々書いてあげたいので、またお時間ございましたら、寄ってやってください。
挿絵も楽しんでいただけて、良かったです。

間を空け過ぎてしまったので、次回はもっと早く更新したいです。
by さめ宗家めぐ (2009-10-02 16:49) 

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